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奥武蔵の風に吹かれて NO.025 明治の肖像 3 2001.7.09


 祖母は編み物が大好き。コタツカバー、座布団カバー、帽子、靴下・・・たった1本の編み棒だけで、何でも編んでしまう。しかも、古いセーターなどをほぐして編むのだから、手間がかかる。

 晩年の祖母はその作業に明け暮れていた。指先の動きは芸術品。そのリズミカルな動きは幾度見ても、僕には解らなかった。一瞬たりとも指が止まることがない。

 祖母の手は大きくて、指も長い。どちらかというと小さめな僕の手と比べると、一まわりも、二まわりも大きく感じる。そして、しわくちゃな手が、歩んできた時間を感じさせる。いったい、どれだけのものを、掴み、そして失ってきたのだろうか。

 股関節を手術してから、祖母は正座ができなくなった。それまでは、毎日、何時間でも平気で正座することができた。編み物や、その他の作業も、全て正座でこなす。そういえば、横や、前に足を投げ出した姿を見たことがなかった。それが、手術後は仕方なくイスに座った生活を余儀なくされる。足の筋肉もだいぶ落ち、家の中を杖で歩くのがやっとだった。それでも、トイレ、入浴、着替えなど、身の回りのことは何でも自分でやった。それこそ、

「頑固でなければ、生きてはゆけない」

という、生き方そのものだったように思う。

 つづく


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